11/19/2013

黒尊渓谷とお弁当







今年の冬は短く厳しいらしい。
そして秋はもっと短いんだって。





短い秋を味わおうと黒尊渓谷まで行ってきた。
いや、正確には、Oさんに連れて行ってもらった。
Oさん、ほんとにいつもありがとう。


四万十に来たばかりの頃、黒尊に行くべきだ、素晴らしいからとその名を耳にしてはいたが、必ずと言っていいほど、「ただ、道中の道がね・・・」と続いた。
行き違い不可能のくねくね道を延々と行かねばならぬらしい。

そんな道、いくらかつての愛車ランドローバー(最小回転半径がまさかの6m超えだった)より小回りが利くといっても、全長4m58cmのキャラバンを操って通れるわけがない。


それで今まで行けていなかったのだが、今回、Oさんに乗せていってもらうことになったのだ。




前日は雨が降ったが午後から上がり、当日16日(土)は朝から小春日和の予報通りの良い天気になった。
残念ながらPM2.5がひどかったが

お弁当は、黒尊に向かう途中の『しゃえんじり』という農家レストランで調達することになっていて、前もってOさんが電話をしてくれていた。

小さな駐車場に車を乗り入れたら、ちょうどスタッフのおばちゃん二人が車でどこかへ出かけるところで、フロントガラス越しに笑顔で挨拶をしてくれた。


あとで気づいたが、どうやら開店時間より早く着いてしまったようで、厨房のおばちゃん達はおおわらわ。
でも、すでに先客がひとりいた。
屋内の座敷
(屋外席もありました)

おばちゃんたちは、大阪のように口八丁ではないけれど(間違いなく手八丁ではあった)、皆さりげなく親切だ。

食事もそうだが、お弁当もバイキング形式で、折りに自分で好きなものを好きなだけ詰めていく。
ツガニめしを詰める母(右)

どれもこれも美味しそうでつい取りすぎそうになるのだが、メニューも盛りだくさんなものだから、少しずつにしないと入り切らなくなる。

母は見事にそれにはまってしまい、おばちゃんに
 「蓋が閉まるかねえ」
と笑いながら心配されるほど山盛り詰めていた。
気持ちは分かるけどね、食べられるのかい・・・

母がなんとか蓋をして少しその場を離れている間に、おばちゃんのひとりが蓋が浮かないようさりげなく輪ゴムをかけてくれていた。
会計する段になって一律700円と言われ、
 「こんなに取ってしまって・・・」
と申し訳ながる母。
まあ、本当に食べたくて詰めたんだから、いいんじゃないか。
帰りぎわ、おばちゃんが覗いてくれた


できたて熱々のお弁当をそれぞれ抱えて車に戻り、黒尊に向けてレッツゴー。
途中の鉄橋からの景色

道中は確かに行き違いが大変だった。
対向車双方が行き違い方を心得ていないと、面倒なことになる。

だが、確かに大変だけれど、想像したほどではなかった。
これならキャラバンでもどうにか行けそうな気がする。(たぶん)
と思っていたら、大型観光バスも通っていた。


黒尊渓谷は、四万十川の支流の一つ、黒尊川流域の一帯だ。

今これを書きながらネットで調べると、四万十川の支流中もっとも清流度が高い川、と書いてあるページがあった。
清流度ってなんぞ?とさらに調べると、こういうことらしい。

何につけても下調べをほとんどしないタチなので、そんなことは何も知らずに行ったが、前情報がなくとも黒尊川の清らかさは誰でも分かる。
今回は紅葉を見に行こうという計画だったのだが、正直言って紅葉以上に私は川を楽しんだ。




そして、これはまったく予想外だったのだが、川の次に楽しんだのがお弁当だった。
写真右下の岩に腰掛けていただきました

これまで、ここではっきり書いたことはなかったのだが、今、敢えて書こうと思う。
あくまでも私個人の感想だが、四万十は料理が不味い。
おそらく素材はいいはずなのに、こちらに来て、料理を提供するのを生業とするお店で出されたもので、心底美味しいと思ったことがほとんどなかった。

でも、こちらの人には
 「やっぱり食べ物が美味しいでしょう?」
と自信を持って言われるので、あいまいに頷くしかなかった。

大阪にいた頃は、何を食べても美味しく、自分の味覚レベルはかなり低いと思っていたが、そうではなくて、大阪はやはり食い倒れの街だったのだ。
大阪を離れて初めて、食文化の高さを実感した。
(でも、学会で行く地方の食事も美味しかったんだけどね・・・)

遠方から遊びに来てくれた友人を連れて行けるお店が限られていても、「できないことを求めても角が立つだけだし」と諦めていた。


だが、しゃえんじりのお料理を食べた今は違う。
やればできるんじゃないか!
私のお弁当(かなり食べてしまったが)
料理の境用にツワの葉がたくさん用意されていた
こちらは我が家のツワブキ

ガッカリしないために、四万十で出された料理を食べる前は、無意識に期待値を下げる癖がついていたから、その範囲で”おいしそう”と思っていたのだということに、ひとくち食べて気づいた。
Oさんバージョン(イタドリと破竹の炊き合わせが最高)
母バージョン(アメゴの甘露煮が絶品)

お、おいしい・・・!!
心底おいしい。
どれもこれも、なにもかにもが。
お弁当食べながらの、橋の下の眺め

確かに、空気まで染まるような紅葉の下、澄み切った黒尊川に足が浸からんばかりの岩に腰をかけて食べるという、最高の調味料はあった。
だがそんなことではなく、本当に美味しかった。
本当に美味しい料理を食べて、心から「美味しい」と言えるって、幸せなことだ。




お腹も心も満たされて、心楽しく川べりから上がってきたら、先ほどの観光バス向けにシシ汁を出していた出店の人が声をかけてきた。
 「今朝、来てくれちょった人じゃないかね?」
しゃえんじりで入れ違いにどこかへ出かけたおばちゃん二人組だった。
なるほど、ここへ出張していたのか。

観光バスのお客用だったシシ汁だが、残っているので良かったらどうかと言ってくれた。
温め直そうとして下さったが、ガスが切れたらしくいくら回しても点かない。
ぬるいままで構いませんと言って有り難く頂いた。
臭みもなくしつこくもなく、けれどしっかりコクがあってまことに良い味わいであった。




それから、あたりをゆったり散策。
黒尊川はあまりに澄んでいて、深さがまったく分からない。
角度によっては、木々が写り込み、紅葉色の川のようにも見えた。
流れは速いのに、じっと止まって動かない葉があると見入る母
真ん中に写ってるのがその葉っぱ


あっという間に2時間が過ぎ、帰路についた。
幹が横たわるこの木、倒れてもなお懸命に根を伸ばして元気だった
これが根の部分
木肌を撫でて、おむすびに御利益をいただいた
紅葉をカメラにおさめるOさん

黒尊渓谷の紅葉のように明るい気持ちになって家に帰り着き、ふと見上げるとおもち(先代)の桜に季節外れの花が咲いていた。
ふわふわしていた心が、切なさで少し静まり、家のドアを開けた。
オカエリナサイ




















11/11/2013

敵を知る


11月1日金曜日。

キャラバンの後部に、今まで以上にクレートをぎゅうぎゅうに詰めて大阪へ民族大移動。
さすがにもう満タンだ・・・。

おむすびも、我が家加入1週間目にして初めての大移動だ。
ケージもバラして積み込まねばならなかったため、出発準備に時間がかかり、オオサカ先生の診療時間内に間に合わなかった。
病院へ向かう道

シマント先生から、インターフェロン連続注射については一日くらい抜けても大丈夫と聞いていたし、前日の夜に初回を打っているので、明けて朝一番に行けば問題ないだろうということでこの日は諦めた。




翌朝、さっそく受診。
まずはひととおり全身を診て頂く。

顎下リンパ節と膝窩リンパ節の腫脹があるが、耳疥癬や尾の怪我のせいと考えても矛盾はないだろうとのこと。
顎下リンパ節が500円玉サイズに腫れていることは保護当初から気になりつつ、毎回訊き損ねていたことだったので、ほっとした。
これは二日目
左:奥様先生 右:若先生
頑張ってマス

体は小さいが、やはり1歳は過ぎているだろうということだった。


診察の終盤、クレートに戻って静かにしているおむすびを見ながら言った。
 「もしどうしてもダメだったら、里親さんを探さないと。
  でも、なかなか難しいですよね。
  本当はうちで飼いたいのですけど・・・」

オオサカ先生は、そうですねといったんは頷き、それから猫白血病の感染力について詳しく教えて下さった。

一番の感染経路は交尾と喧嘩であり、猫同士の単なる接触だけでは感染しないことが多い。
食器を一緒にすることは基本的には御法度だが、実際にはそれでも感染せずにすむことも珍しくない。
ケージ越しの接触くらいではほとんど心配は要らないだろう。
などなど。(他、ウイルスに関する専門的な話も)
『ナライイヨネ』『ネー』

実際に先生が診られた例では、ある飼い主さんが、多頭飼いの中へ白血病と猫エイズ両方のキャリアの子を一緒にせざるを得ない状況になったが、その後何度検査しても、他の猫達にうつっていないという。

私は、ケージは当然のことながら、周囲の床も消毒し、えさ入れも水入れも、毎回熱湯消毒をしていた。
使い捨て手袋も使っていたが、それでも手を洗いすぎてガサガサになっていた。

もちろん、白血病陽性と分かってからネットで調べ、あまり感染力は強くなく、消毒もしやすいことは知っていたが、ネットの情報だけでは加減が伝わらず、どうしても慎重になってしまう。

そこまで神経質になる必要はないと分かって、肩の力が抜けた。


さらに、白血病ワクチンについての新しい情報も教えて頂いた。

白血病ワクチンではまれに肉腫が誘発されることがあり、こげもちの場合は、今後完全室内飼育なら、あえてそのリスクを冒す必要はないだろうということで打っていなかった。
今後も、たとえおむすびのためとは言え、こげもちにそのワクチンを打つことには抵抗があった。

しかし、つい最近、日本でも新しく肉腫誘発性のないワクチンが認可されたというのだ。
グッドタイミング!

なんだか希望が見えてきた。




四万十の病院でおむすびが白血病陽性だと分かったとき、たてつづけに20回くらいは、
 「かわいそうに」
 「こんないい子なのに、なんで」
と言わずにいられなかった。
本当に胸が痛んだ。

でも、元来長続きしない性格なので、わりとすぐに気持ちが変わり、
 「これからはうんと幸せに暮らそうね」
と繰り返した。
野良で寂しい思いをした分、最高に幸せにしてやろうとやる気が漲った。

そしてすぐに、我が家では他の子と一緒にしてやれないことに気づく。
・・・ならば、最高に良い飼い主さんを見つけてやろう。
そうだ、可哀想なのはこの子じゃない。
私だ。

おむすびは、自分の寿命を憂えたりなどしない。
うちにいられなくても、良い飼い主さんの元で暮らすことができれば彼女は幸せなのだ。

私がこの子と一緒に暮らせないから悲しいので、私がそれを悲しまなければ、可哀想な者は誰もいないことになる。


シマント先生が、白血病陽性の子はほとんどが長くて5年くらいしか生きられないと言った。
悪くすれば2~3年。野良のままならもっと短いだろうと。

良かった、保護できて。
ならば生ある間、めいっぱい楽しく暮らせるように、よいお家を見つけてやるからね。
おむすびにそう話しかけていたら、シマント先生がインターフェロンの事を教えてくれたのだ。

だが、ほとんど役には立たないだろうというニュアンスだった。
効果があるのは感染初期のみで、慢性化したら無意味であり、この子は感染したてとは思えない、という理由だった。

1本いくらか聞いてみたら3500円くらいとのこと。
ガディが癌の手術をした後は、数ヶ月のあいだ週に一回インターフェロンを打ちに通ったのだが、1本一万円した。
もしそんなにかかったら、貯金が底をついてる今はとても無理だが、3500円ならなんとかなる。
ホントニ?

シマント先生に確かめてみた。
 「打っても、まったくもって無意味ですか」
先生はうーんと唸ってから答えた。
 「まあ、難しいでしょうね」

その答えを聞いて、打つことに決めた。
もし、先生が「打つだけ無駄でしょうね」と即答したら、考え直そうと思っていた。
だが、「99.9%無駄」であっても、「100%無駄」でないのなら、試してみる価値はある。
お願いすることになった。




ともかく、オオサカ先生のところで、連日3日インターフェロンを打ってもらった。
ややこしいので表にしてみた


ちなみに、おむすびは待合室でも診察室でも、いい子だった。

大きな犬が吠え続けていても、隣のミニチュアダックスがクレート越しにそっと覗き込んでも、あまり気にしなくて、私がフタについた窓を開けて手を入れてやったときだけゴロゴロ言っていた。


大阪の家では別室が少し離れて人の気配が伝わらないせいか、元気がなかった。
ぽつねん

あまり食べなくて、せっかく2.9kgまで増えた体重が、最終日には2.7kgまで減ってしまった。

それでも、インターフェロンの効果に関わらず、一緒に暮らせる希望が出てきたことは私にとってなによりの収穫だった。
病院から帰る道