10/03/2010

どんぐりの実る里



年をとったら、どこで誰と、どんな風に暮らしているだろうと思うことがよくある。
自分の家でぎりぎりまで思うとおりに暮らしてぽっくり逝く、となれたら幸いだが、現実はそうもいかない。

老健施設や特別養護老人ホームの前を通りかかることがあると、そこで暮らす毎日をついシミュレーションしてしまう。


私の叔母たちは、そういう施設を運営している。
『どんぐりの里』
(↑知人が施設ブログを書いてくれているそうです)






小さな倉庫を借りて始めたこのデイサービスセンター、口コミで評判が広がり、この夏、『どんぐりの里II』を開設する運びとなった。
いよいよ暑さも本格的になった8月8日、見学に行ってきたのであった。
(つまり、前回の日記よりさらにさかのぼる、という・・・)


高知県須崎市にあるこの施設は、1階ではデイサービス、2階では高齢者専用賃貸住宅が運営されている。

入り口は、いちおうスリッパなどが置かれ、我らは履き替えて入ったが、利用するお年寄りは土足のまま。

            段差がない玄関口

建築家は「それはやめてくれ」と言ったそうだが、お年寄りはこの靴の履き替え時に転倒することが多いため、叔母たちは譲らなかった。
たしかに、そのまま出てそのまま入れるなら、お年寄りも気軽に屋外に出られるし、とてもいいよね。


この施設は立地も良い。
南には海が見える。


反対側は、なんとフェンス一枚隔てて小学校である。
日中、子供たちの元気なかけ声が聞こえて活気があるが、夜は静かである。

      右手に学校のグランド、左に桜並木の小道


さて、屋内をご案内。

ここでは、デイサービスに来た人も、2階の入居者も、一緒にレクレーションをしたりして交流する。


調子が悪くなったときに休む部屋。


そういう時には、アロマテラピストでもある叔母が、状態に合わせて調合する。



厨房デス!


叔父や叔母が毎食ここで作る、家庭の味がどんぐりの里の真骨頂。
我らも皆さんと同じ食事をいただいた。


食器は高級品ではないが目にも楽しい陶器だし、お箸だって竹製の持ち心地のいいものだ。
食材は、叔母たちが地元で買い求めるほか、地元の人が届けてくれるんだって。最高だね。


季節の食材で種類も多く、とても美味しい。これが口コミで評判を呼んでいるそうな。

二階の居住スペース。


「何号室」ではなく、「自分の部屋はイチョウです」という方が暖かみがあるという叔母たちのこだわりで、こういうネームプレートである。


そして、ランドリーバッグにも、ちゃんと部屋のマークが。

            イチゴの部屋には

        いちごマークのランドリーバッグ

大浴場もあるけど、こんな自宅風の小さめの浴室もある。
藤で編んだような雰囲気の床にしたかったそうだ。



畑もする予定で、土壌改良中である。


   母がプレゼントしたりんごの苗木たちを植えてくれていた






まだできたばかりだから、整っていないところもあるけれど、利用者さんたちの評判は上々である。
備品も、可能なものはほとんど手作り。

まったくもって当たり前のことなんだけど、「やりたくてしている仕事」は、細かいところまで心が行き届く。
しんどいことも、苦痛に感じない。
自分にとっての犬の世話がまさにそうだから、よく分かる。

               エヘ

もちろん本業でもそうだ。(これ、ちゃんと言っとかないと)
医者になって2年目に、麻酔科に半年間研修に行っていた。ほとんど5時になったら帰ることができる、楽な半年であった。
のはずなのに、しんどい半年であった。
5時を少しでも過ぎると、苦痛でしょうがなかったのだ。
脳外科なら、徹夜続きでも、嫌だと思ったことは一度もないのに。

だから、『どんぐりの里』のみんなが、儲けはあまりなくても、お年寄りの気持ちになって頑張れることはとても納得できる。
それは例えば犬の保護をがんばっている人たちもきっとそうなんだと思う。
どんな分野であれそういう経験がないと、理解できない人もいるかもしれないが。






最後に、利用者さんたちの人気者の紹介です。

            ボクキャベツデス

叔母の愛犬だが優しく大人しく、控えめな性格がお年寄りにはぴったり。
喜んで出勤しているそうだ。
気むずかしく、誰とも口をきかないご老人が、キャベツのおかげで話すようになったということが実際にあるという。






とにかくお年寄りの世話をするのが楽しくて仕方がないと嬉しそうに語る叔母たち。
「天職だ」とまで言っていた。
これまで、いろんな職業を経験してきたのは、このために必要な年月だったのだろうな、と見ていて思う。
叔母の息子は、理学療法士になるべく勉強中である。もうすぐ心強い助っ人になりそうだ。


書き始めるときりがないので割愛するが、老人介護の現場は難しい問題がたくさんあって、歯がゆい思いすることも多い。お年寄りご自身とその家族はもちろん、医療関係者も、叔母たちのような施設運営者も。

そんな今の体制に負けず、叔母たちとお年寄りたちの幸せな場所が、これからずっと続きますように。
心から応援している。