今年の冬は短く厳しいらしい。
そして秋はもっと短いんだって。
短い秋を味わおうと黒尊渓谷まで行ってきた。
いや、正確には、Oさんに連れて行ってもらった。
Oさん、ほんとにいつもありがとう。
四万十に来たばかりの頃、黒尊に行くべきだ、素晴らしいからとその名を耳にしてはいたが、必ずと言っていいほど、「ただ、道中の道がね・・・」と続いた。
行き違い不可能のくねくね道を延々と行かねばならぬらしい。
そんな道、いくらかつての愛車ランドローバー(最小回転半径がまさかの6m超えだった)より小回りが利くといっても、全長4m58cmのキャラバンを操って通れるわけがない。
それで今まで行けていなかったのだが、今回、Oさんに乗せていってもらうことになったのだ。

前日は雨が降ったが午後から上がり、当日16日(土)は朝から小春日和の予報通りの良い天気になった。

お弁当は、黒尊に向かう途中の『しゃえんじり』という農家レストランで調達することになっていて、前もってOさんが電話をしてくれていた。
小さな駐車場に車を乗り入れたら、ちょうどスタッフのおばちゃん二人が車でどこかへ出かけるところで、フロントガラス越しに笑顔で挨拶をしてくれた。
あとで気づいたが、どうやら開店時間より早く着いてしまったようで、厨房のおばちゃん達はおおわらわ。
でも、すでに先客がひとりいた。

おばちゃんたちは、大阪のように口八丁ではないけれど(間違いなく手八丁ではあった)、皆さりげなく親切だ。
食事もそうだが、お弁当もバイキング形式で、折りに自分で好きなものを好きなだけ詰めていく。

どれもこれも美味しそうでつい取りすぎそうになるのだが、メニューも盛りだくさんなものだから、少しずつにしないと入り切らなくなる。
母は見事にそれにはまってしまい、おばちゃんに
「蓋が閉まるかねえ」
と笑いながら心配されるほど山盛り詰めていた。
気持ちは分かるけどね、食べられるのかい・・・
母がなんとか蓋をして少しその場を離れている間に、おばちゃんのひとりが蓋が浮かないようさりげなく輪ゴムをかけてくれていた。
会計する段になって一律700円と言われ、
「こんなに取ってしまって・・・」
と申し訳ながる母。
まあ、本当に食べたくて詰めたんだから、いいんじゃないか。


できたて熱々のお弁当をそれぞれ抱えて車に戻り、黒尊に向けてレッツゴー。


途中の鉄橋からの景色
道中は確かに行き違いが大変だった。
対向車双方が行き違い方を心得ていないと、面倒なことになる。
だが、確かに大変だけれど、想像したほどではなかった。
これならキャラバンでもどうにか行けそうな気がする。(たぶん)
と思っていたら、大型観光バスも通っていた。

黒尊渓谷は、四万十川の支流の一つ、黒尊川流域の一帯だ。
今これを書きながらネットで調べると、四万十川の支流中もっとも清流度が高い川、と書いてあるページがあった。
清流度ってなんぞ?とさらに調べると、こういうことらしい。
何につけても下調べをほとんどしないタチなので、そんなことは何も知らずに行ったが、前情報がなくとも黒尊川の清らかさは誰でも分かる。



そして、これはまったく予想外だったのだが、川の次に楽しんだのがお弁当だった。

これまで、ここではっきり書いたことはなかったのだが、今、敢えて書こうと思う。
あくまでも私個人の感想だが、四万十は料理が不味い。
おそらく素材はいいはずなのに、こちらに来て、料理を提供するのを生業とするお店で出されたもので、心底美味しいと思ったことがほとんどなかった。
でも、こちらの人には
「やっぱり食べ物が美味しいでしょう?」
と自信を持って言われるので、あいまいに頷くしかなかった。
大阪にいた頃は、何を食べても美味しく、自分の味覚レベルはかなり低いと思っていたが、そうではなくて、大阪はやはり食い倒れの街だったのだ。
大阪を離れて初めて、食文化の高さを実感した。
(でも、学会で行く地方の食事も美味しかったんだけどね・・・)
遠方から遊びに来てくれた友人を連れて行けるお店が限られていても、「できないことを求めても角が立つだけだし」と諦めていた。

だが、しゃえんじりのお料理を食べた今は違う。
やればできるんじゃないか!


ガッカリしないために、四万十で出された料理を食べる前は、無意識に期待値を下げる癖がついていたから、その範囲で”おいしそう”と思っていたのだということに、ひとくち食べて気づいた。


お、おいしい・・・!!
心底おいしい。
どれもこれも、なにもかにもが。

確かに、空気まで染まるような紅葉の下、澄み切った黒尊川に足が浸からんばかりの岩に腰をかけて食べるという、最高の調味料はあった。

本当に美味しい料理を食べて、心から「美味しい」と言えるって、幸せなことだ。

お腹も心も満たされて、心楽しく川べりから上がってきたら、先ほどの観光バス向けにシシ汁を出していた出店の人が声をかけてきた。
「今朝、来てくれちょった人じゃないかね?」
しゃえんじりで入れ違いにどこかへ出かけたおばちゃん二人組だった。

観光バスのお客用だったシシ汁だが、残っているので良かったらどうかと言ってくれた。
温め直そうとして下さったが、ガスが切れたらしくいくら回しても点かない。
ぬるいままで構いませんと言って有り難く頂いた。


それから、あたりをゆったり散策。







あっという間に2時間が過ぎ、帰路についた。




黒尊渓谷の紅葉のように明るい気持ちになって家に帰り着き、ふと見上げるとおもち(先代)の桜に季節外れの花が咲いていた。

