病院と救急隊とは、保護されたネットワークで繋がっていて、救急車に収容された患者さんの情報『傷病者観察票』がオンラインで確認できる。
・・・なんだか分かりづらい書き方になったが、要するに、地域の救急車が収容した患者さんの状態が、病院のパソコンから見られるのである。

先日、そのパソコンを看護師さん達と一緒に見ていたとき。
妙に空白の多い観察票が目に止まった。
枠外に走り書きのメモがあり、高齢男性が道で倒れているという。
通りかかった人が通報したようだ。

救急隊員は患者さんを病院に搬入するまでの間に、最大限に情報を集める努力をしてくれる。
それが迅速で正確な診断・治療の助けになるからだ。
だから、普通『傷病者観察票』は、現在の患者さんの状態はもちろん、これまでの病気や家族からの情報、何度も計測した血圧や脈拍など、びっしりと書き込まれているものだ。

その観察票は、患者さんの年齢・氏名といった個人情報はおろか、意識状態も体の状態もなにも書かれていなかった。
普段なら
「○○時〜気分不良、○分後から嘔吐×回、前日から云々」
「家族が帰宅すると倒れていた、呼びかけに反応無し、云々」
などと深刻な病状が細かく記載されている欄はこうなっていた。

さらに”訴え”、すなわち一番つらい症状を書く欄は


この朝、私も家を出て目を見張った。
前日は豪雨だったが朝からきれいに晴れ上がり、強い風が吹いている。

普段はPM2.5で黄色くかすむ山々がくっきりと鮮やかに見え、さざ波の立った田んぼの水面は銀色に輝いていた。
昔、もっと自然が豊かだった頃はこれが当たり前だったのか。
昔の人も、当たり前とは思わずその度に感動したのだろうか。

などと考えながら出勤した、その午前中の話である。

だから、この観察票を見て、
「分かる、分かる」
と自然に頬が緩んだ。
「分かる、分かる」
と自然に頬が緩んだ。
長年生きてきても、山の緑に心を動かさずにいられない人がいる。
ためらわずすぐ救急車を呼んでくれる人もいる。
救急隊は念のため脈など診た上で引き上げたようだ。
救急処置室で、看護師さん達と何度も読み返しては幸せな気分で笑った。
疲れた心もふんわり和らいだ。
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