7月三連休の初日。

カヌーである。

川遊びの計画を立てていたら、カヌー経験者のOさんが
「かわらっこでカヌーってどうです?」
と誘ってくれたのだ。
四万十に移住してから興味を抱きつつ、それまであまりに縁のない世界だっただけに一歩が踏み出せずにいたカヌー。
しかも、犬連れOKだと。行かない理由があろうか。

最初はホープを連れて行こうかと思ったが、
「ソフィと乗りたい」
という心の声がずんずん大きくなる。
しかし、ホープだけは努力の甲斐あって浅いところ限定なら自分から水の中に入るようになったものの、他の黒グロはどんなに暑くとも、敷地内の小川にすら絶対入ろうとしないのだ・・・



それをいきなりカヌーって、大丈夫だろうか。
家でそんなことを漏らすと、母が言った。
「あんたと一緒なら安心してるから大丈夫よ」
なんとなくそんな思いが自分の気持ちの片隅にもあった。
母の一言に後押しされ、心が決まった。

さっそくソフィ用のライフジャケットを注文し、19日を待つ。
自分の準備はそこそこで、ソフィの事ばかり考えていた。
子供の入学式を控えた親って、こんな感じなんだろうか。

いよいよ当日の朝。

ときおり、雨がぱらついている。
よし、これならソフィを連れて行けるぞ!


夏の犬連れレジャーは危険がいっぱいだ。
犬が寒さで死ぬなんてのはよほどだが、熱中症ではあっけなく死んでしまう。

ソフィは、元気でもいちおう11歳だし、毛が深いし、なんといっても黒犬だ。
太陽の照りつけるピーカンは言うまでもなく、曇っていても気温が高いとか、無風で湿度が高いとかだったら、危険すぎて連れてはいけない。
かといって、ざんざん降りだと川遊び自体できないから、もうこれは最高のタイミングで絶妙の天候になってくれたんである。

分からないながらに準備した荷物は、
ソフィのライフジャケット、
スワンプクーラー(クーリング服)
クーラーボックス(大)
クーラーボックス(小)
防水カメラ
タオル類
そして自分の着替え。
スワンプクーラーは以前から持っていたので、陸にいる間に気温が上がった時の用心に。
クーラーボックス(大)には水をいっぱいに満たした。
クーラーボックス(小)の中身は、前の晩から凍らせたペットボトルの水を3本と、ブロック状にカットしたスイカを凍らせたもの。
着替えは、どのくらい濡れるものなのか分からないから、いちおう全身ずぶ濡れになってもいいようには揃えた。
以上万端整え、ほぼ予定通りに家を出発。
途中でOさんと合流し、私の車でかわらっこへ。

それもそのはず、世間では、昨日から夏休みになったそうだ。
早く着きすぎたんで、そこらを散歩。
Oさんと記念撮影などしてみる。



人間用のライフジャケットやパドルを配ってもらうのに並んでいたら、後ろにフレンチブルドッグの男の子が来た。
黄色のライフジャケットがよく似合っている。

ソフィを指し、うちのは初めてなんです、と言うと、飼い主さんが、うちもなんです、このライフジャケットも3日前に届いたばかりで、と仰った。
そうかあ、初体験仲間がいたんだね。なんか心強いや。
タラ君(←違うかも知れないけど)は大きい犬が好きなんだという。

このタラ君たら、仕草がもういちいち愛らしいのだ。

長いマズル好きのこの私がメロメロになるほどだ。

全員にライフジャケットとパドルが行き渡ったら、バスでかわらっこから5分ほど上流へ移動して、河原へ降りた。


ちなみに、カヌーツーリングでは、カメラ係の人がどんどん写真を撮ってくれる。
まさにワクワクドキドキ、期待と緊張が入り混じる。
そんなツアーの様子を撮りまくってくれた写真が全て入ったCDを、最後に1000円で買える。
もちろん買ったが、なんと1200枚以上も入っていた。

川べりに着いたら、まず最初にみんなで集合写真。

ついてない方の足を高く上げ、できるだけ水に浸からないように努力していたが、思ったほどには抵抗せずなんとか入水。
さっそく川の水を飲んだりしていたから、いい感じだ。

記念撮影でテンションが上がったところで、いよいよツアーのはじまりである。


私はカヌーとカヤックは似て非なるものだと思っていたのだが、カヌーとひとくくりにされるものの中に、カヤックも含まれているらしい。
私達は「タンデムカヤック」という二人乗りのカヤックを申し込んでいたのだが、出発前に申請したら、インストラクターさん達がソフィを見て、「タンデムカヤックには大きすぎないか」と言う。

しばしの詮議の後、暴れないかと訊かれたので、確信はなかったが、大丈夫だと思うと答えたら、「静かにしてるなら、まあ、いける、んじゃない、かな・・・」と、いささか不安の残るニュアンスでOKが出た。
だ、大丈夫かな・・・

他には、カヤック(一人乗り)、カナディアン・カヌー、ラフト・ボートがあり、それぞれに分かれて説明を聞く。


タンデムカヤックは、本当は慣れた人が後ろに乗った方がいいらしいのだけど、ソフィのことを考えると、私が後ろにならないと無理だろう。
後ろの者がカヌーを固定して前の者(=Oさん)がまず乗り込む。
次に後ろの者、すなわち私が乗り込む。
ドキドキの初乗りである。
そもそも自分がうまく乗れるかが心配だったが、思ったよりは揺れず、問題なく乗れた。
次の心配は、ソフィがパニクったり、頑として乗船拒否したりしやしないかということだった。
が、そこはさすがソフィさん、川遊び初めてにしていきなりカヌー挑戦という無謀な飼い主の計画にも関わらず、おどおどしながらも意外にすんなり乗り込んでくれた。

こういうのを想像していたのだが

こうなった。

カヌーを漕いでいる間中、ソフィと顔をつきあわせることになった。





タ:アノ黒イオ姉サン、大丈夫カナ

それでも、ソフィ姐さんはがんばった。

衝突直後 何故か嬉しそうな2人
ツアーが終わるまで、「こんな静かな子も珍しい」と何度か言われた。
うーん、真の姿は、我が家随一の武闘派なんだけどね。

10分ほど練習してコツをつかんだら、いったん休憩。



かわらっこさんで、ちゃんと河原に冷たいお茶を用意してくれている。

ひと息ついてから、沈下橋から飛び込みたい人たちは、インストラクターと共に橋の上に集まった。


私は、飛び込む系のイベントは、大学5回生の頃にケアンズで飛んだ44mのバンジージャンプでもう十分。
てことで、橋の上から、飛び込む人々を見学することにした。


ためらいなく先陣を切って飛び込んだ男の子を皮切りに、皆、カメラマンに向かって思い思いのポーズをキメながら次々に飛んでいる。


それもすごいが、私は、橋に腰掛けて一人一人を高速連写しているカメラマン氏がすごいと思った。



毎年、この時期にかわらっこでカヌーをするのだという。
フレブルのタラ君の飼い主さんには、飛び込まれるなら犬をお預かりしますよと声をかけてもらった。



大人も、子供達も、犬達も、穏やかで礼儀正しかった。


沈下橋からの飛び込みが終わったら、いよいよ本当の川下りだ。
途中に瀬があるということで、カヌーがひっくり返ったときの注意も聞く。


さあ、いよいよ出発!



我らは、最後尾からゆっくり行こうということで、他の皆が思い思いに川を楽しむ様子を後方から眺めながら、のんびりと漕ぎ出した。





途中からカメラマンの存在を完全に忘れていた私は、
「このままではソフィと一緒に写った写真がない!」と焦り、自撮りを試みる。


途中、ほんのしばらく青空が出た時は、ソフィに川の水をかけてもかけてもすぐ頭の上でお湯になってしまい、





タラ君は余裕だった







この頃にはソフィはすっかりくつろいで、私の足の間でうつらうつらと文字通り船をこぐ。





到着するのが惜しかった。


カヌーを引き上げた後、せっかくなのでソフィを連れてもう少し深みまで行ってみる。
泳がせてみたかったのと、陸に上がる前にもう一度しっかりソフィの体温を下げておきたかったのだ。

ソっさんは、少しドキドキしてはいるが、嫌がってはいない。
川というものに少し慣れたようだ。


怖がらないよう、ぴったり私の脚側につけて進んでみると、おお、犬かきになってるじゃないか。
記念すべきソフィの犬生初めての犬かき、これは何としても記録しなければ!
Oさんに撮ってもらおうと急いでカメラを渡した時に、私のバチャバチャやった動作と水音に、姐さんは緊張したようだ。
いちおうもう一度泳いではくれたが、文句を言われた。
(声が大きいので音量注意)
ごめんごめん、ソフィよ。

さて、皆がかわらっこへと引き上げはじめたので、我々も川から上がる。


もう半刻もすれば、とても犬を歩かせることはできないだろう。
ライフジャケットとパドルを返し、インストラクターの方々とカメラマンさんにお礼を言って、車へ戻る。
大阪から来られていたご一家と、また来年お会いできるといいですねとご挨拶した。
気さくだけれど礼儀正しく、感じの良いご家族だった。


結局全身ずぶ濡れになったので、交代で着替えに行くと、かわらっこは午後の部のお客さん達で急にごった返していた。
更衣室も満員なので、ロッカーは使えず、ぎりぎり外から見えない程度の端っこで着替えるはめに。
Oさんにソフィを預かってもらっていると思うと濡れた靴を脱ぐ時間も惜しく、靴も履いたままでダッシュで全部着替えた。
大急ぎで戻ると、Oさんが
「さっきまでお姉さん方に、カワイイーって言われながら囲まれてましたよ」
と笑いながらソフィのリードを手渡してくれた。
あまりにも出入り口を注視していたので、通りすがりのお姉さん方にもOさんが飼い主でないとすぐ知れたらしい。

交代でOさんが着替えに行っている間に、うまい具合に半解凍になった氷スイカをソフィに食べさせる。
ソフィの脱水・熱中症予防にと私なりに考えてみた氷スイカ。
スイカなら、水分補給とミネラル補給が一度にできるし、凍らせておけばお腹の中から体温を下げられるし、なんといっても、それらのケアがソフィにとって嬉しいものになるのがいい。
アイスノン代わりに入れてたペットボトルの水も、ほとんど溶けていたので飲ませてみたが、スイカで十分水分補給ができたせいか、それほど欲しがらない。
キンキンに冷たい水だったので、ソフィの頭からかけて冷やしてやった。
空になったペットボトルでクーラーボックスいっぱいに入れてあった水を汲み、ソフィの体を洗う。
残りで自分の足も洗って、靴を履き替えた。

そうこうしていたらOさんが戻ってきた。
建物内はさらに混んできたらしい。
さっき行くヒマがなかったので、もう一度Oさんにソフィのもりを頼んでトイレに行ったが、ロビーも食堂もすごい人だった。
この日の午前中が、ギリギリ夏休みの大混雑を回避できるタイミングだったようだ。
すばらしい。

こうして楽しいカヌー初体験を終え、人も犬もさっぱりした気分でお昼ご飯タイム(これは人間だけ)だ。
途中、何度か強いにわか雨がざっと降る。
午後のカヌー体験の人達は晴れたり降ったりで大変そうだね、と話しながら車をしゃえんじりへ走らせた。
せっかくのヘルシーで美味しいご飯だったが、クーラーをかけっぱなしの車内でソフィを待たせていたので、大急ぎで食べた。

ここも、外国からの旅行者の人達までいたりして、なかなか繁盛していた。
Oさんがたくさん飲み物を持って来てくれていたので、どこかでそれを飲もうということになり、道路沿いの休憩所で四万十川を見下ろしながら、私達はジュースを、ソフィは残りの氷スイカを楽しんだ。
そうこうしていると、雷が鳴り始めたので車に戻り、帰路につく。

朝集合した場所でOさんと別れ、家まで帰り着いた。
ソフィはさぞやお疲れで、すぐさま寝るだろうと思いきや、まったく疲れを見せず、いつも通りエネルギッシュ。
私は自分の左足だけが日焼けしているのに驚きつつ、



心地よい疲れで、その夜は早い時間から泥のように眠った。

犬連れカヌーは、想像していたより、ずっとずっと楽しかった。
秋になったら、また行こう。
今度はうちも家族全員で。
水が好きすぎて(カヌーでじっとしていられないだろうから)今回一緒に来られなかったO家の黒ラブ・キース君はじめ御一同もみんなで、ね。


最後に。
夏休みに犬を連れて自然の中へ!というのは楽しそうだけど、細心の注意を払ってね。
ほとんどの野性動物は、暑いときに活動しやしません。
木陰で、日が落ちて気温が下がるまで寝ています。

共に楽しめているのか、自分の楽しみに犬をつきあわせているのかを、見誤らないようにしましょう。
皆様(ヒトも犬も)、よい夏休みを!