考察とタイトルをつけましたが。
まあ、自分なりにあれこれ考えたこととか、些細なことだけど書いておきたいこととか、脈絡なく綴ったごった煮のようなものです。
だらだら書くのは今回でおしまい、の予定。
二つ前の投稿で”三途の川を渡りかけた”と書いたが、実際ホープは本当に死にかけた。
処置がなされなければ、たぶん心臓が止まるまでそう時間的余裕はなかったはずだ。
見て分かるほど具合が悪そうになってからは、おそらく1時間、経つか経たないかだったろう。
胃捻転の体験談はネット上に溢れているが、それほど急激な経過を辿った話は少なく(「ヨダレを垂らし」「お腹がパンパン」となってから気づき、そこから診てもらうまで数時間かかっている話も多い)、ホープは特殊な例かもしれない。

それでも助かったのは、病院の処置はもちろん言うまでもないが、やはり早く気づき、早く動いたことが最大の要因だと思う。
いくら設備の整った病院があっても、救命可能な時間内にそこにいなければ無意味なのだから。
実は、胃捻転は、四万十に移住するにあたって、私がもっとも恐れていたことだった。
田舎暮らしをするにあたり、もっとも考えておくべきなのは当然医療面だろう。
獣医事情はかなり厳しいと予想された(実際は予想よりはるかに悪かった)が、基本的に我が家の連中はそろいもそろって肉体派。
ナンカ言ッタカ
治療を要するのはせいぜいケンカ傷くらいで、それなら私もお手のものだ。
たしかに、大阪にいた頃、ガディが感染性大腸炎で下血してかかりつけの先生に急いで診てもらったことと、ソフィが夜中に原因不明の大出血を起こして夜間救急病院のお世話になったことはあったし、そういうことがまた起こらない保証はない。
しかし悪いことばかり想定し過ぎてもキリがない。
だが、胃捻転はまた話が違う。
胸の深い犬がなりやすいのはよく知られた話だ。
そして普段は毛で隠れて分かりづらいが、グローネンダールの体型はほとんどサイトハウンド系のそれである。
しかも、発症したら、後は時間の勝負だ。
”身”だけだともっとくびれてます
18年前、ガディを迎えたばかりの頃からずっと注意はしてきた(その時代にインプットされた鼓腸症という言葉がいまだに抜けない)。
が、獣医事情が致命的に悪い四万十ではどうしようもない。私にも応急処置のしようがない。
だから、移住してから、犬達のお腹に触れるのが癖になっていた。
特に休日(=動物病院が開いていない)は、犬達の様子がいつも通りか、センサーを張り巡らせて気にかけていた。
2、3年も経つとそれが無意識になっていたらしい。あの日もホープのお腹に触れるまではほとんど意識せずにやっていた。
術後12日。そろそろ抜糸した方が良さそうだ
気づいた後もきっと、病院が近い大阪だったらもう少し様子を見ただろう。
そのくらい、ホープは元気だった。
元気なうちに動き始めたおかげで、2時間かかる病院まで連れて行くことができた。
気づいてから4時間半後、ホープの命は風前の灯火となり、だが助かった。
だから、言えることがひとつある。
癖づけることの大切さ
だ。
癖になっていれば、毎日神経を尖らせている必要はない。
休日の午後、遅めの昼ご飯を食べて活動を停止しかけていた脳みそでも、些細な異変を見つけることができた。
何度も何度も触ってきたからこそ、お腹が膨らんでいなくても、元気があっても、固さだけで異変を確信できた。
半抜糸したところ
大切な事は、『癖づけ』ておく。
基本的なことかもしれないが、だからこそ生死を左右することもある。
もうひとつ大切だと思うのは、これもよく言われることだが、いざという時のシミュレーションをしておくこと。
移住してすぐ、Oさんから、四万十市、宿毛市のおもだった動物病院のパンフレットや地図をまとめたものをもらい(Oさん本当にいつもありがとう)、ファイルしてある。
診療時間内であれば、それを見て連絡できる。
問題は診療時間外にどうするかだ。
真夜中などどうしようもないタイミングであれば、直接獣医さんまで行き、出てくるまでドアを叩き続けるつもりでいる(というかそれしか方法がない)。
先代おもちの時は幸い弟がいたので、まずは彼だけで獣医さんをたたき起こしに出向いてもらった。
その甲斐あって、やれるだけのことをしてもらえた。
(今回は休日とは言え日中だったので、より良い方法がとれる可能性を考え、友人に連絡を取った。そしてそれが正解だった。)
そこまでは考えていたが、ひとつ足りなかったことに気づいた。
各動物病院までの道を、実際に行っておくべきだということだ。
今回は母がいたし、ホープもまだ元気があったので、初めての病院でも(友人や親戚に電話で道順を説明してもらったこともあって)、少し迷っただけで着くことができた。
これが自分1人で、しかもホープがすでに苦しんでいたらどうだっただろう。
もっとうろたえ、初めての道でひどく迷って、時間を大幅にロスしたかもしれない。
一度でも行っていれば、相当違うと思う。
近いうちに、あちこちの動物病院までのルートを実際に走っておくつもりだ。
胃捻転の危険因子を調べると、
胸が深い体型
大型犬
高齢犬
やせ形
神経質・怖がりな犬
食後すぐの運動
餌入れの高さ
一回の食餌量が多いこと
といった項目が挙げられている。
身体的なことは仕方がないので、後半3項目に関しては飼い主が考えてやらねばならない。
と同時に、どれにも当てはまらないのに発症することも多く、『交通事故のようなもの』とも言われるらしい。
結局、完全には予防できないのだから、「もしなったらどうするか」に備えておくことが重要になる。
それも、最悪の状況下でのシミュレーションをしっかりしておくべきだろう。
あと、同胎犬に発症したものがいると、リスクは3倍以上に跳ね上がる。
ホープの血族には20頭ほど見渡しても、発症犬はいなかったのに、不名誉な一頭目になってしまった。
もちろん、同胎犬の飼い主さんには連絡をした。
それにしても、家族の具合が悪いと、くだらないことにこだわってしまうものだ。
ちょうど発症前日(14日)に車を洗い、後部座席を徹底的に掃除し、みんなのクレートも隅々まできれいにしていた。
ついでに、ホープのケージをたたんだ。
どのくらい大きく育つか分からなかったため、彼だけクレートではなかったのだが、今回、やっと皆と同じものを買ってやることにしたのだ。
14日の晩は当直だったので、合間を見てクレートの注文も済ませるつもりが、いろいろ忙しくてできなかった。
たたんだケージも車の後ろに積んだまま当直に行き、15日の朝帰宅した際に、ゲート脇の小屋にしまったばかりだった。
つまりその日、ホープのいるべき場所だけが、消えていたのだ。
くだらないと分かっていても、嫌な偶然に思えた。
だってそんなこと、ホープが車に乗るようになってから、この5年間で初めてである。
病院へ向かうときは消毒したてのソフィのクレートに入れたが、帰り道では、いつもホープが乗っていた場所だけがらんどうになっている後部座席が、嫌でも気になった。
チワワのムギが死んだとき、飼い始めて4ヶ月が経とうというころになって初めて、彼女の毛色に似合った淡い黄色のフードボウルと、同じ淡い黄色の持ち手のロングリードを買ってやり、届いたばかりだった。
いつ使い初めするかを考え中で、机の上に並べてあったのだ。
結局、ムギはそれらを一度も使わなかった。
ガディの時も、おしっこが時々間に合わなくなって、洗濯が多くなったため、ガタの来ていた洗濯機を買い換えた。
さ、これでいくら汚してもどんと来いだ!と嬉しくなったのに、洗濯機が届く前にガディは逝ってしまった。
だから、ホープは大丈夫だ。
だって、まだ注文していないもの。
もし、注文してしまっていたら、使わずじまいだったかもしれない。
でも、一緒に注文しようと思ったブラウニーのクレートのサイズを決めかねたせいで、一度はカートに入れたホープの分まで、結局注文できなかったんだ。
だから、きっと大丈夫。
そう自分に何度も言い聞かせた。
よかった、その通りになって。
ブラウニーにも助けられたって言えるのかな。
エッヘン
ドキドキさせられたことは他にもある。
まだ危ないと言われていた手術翌日(16日)は、午前中外来だったので、携帯を持ち歩けない。
朝電話で容態を聞いた後、先生に病院の番号を伝え、もしもの時は脳外科外来に繋いでもらって下さいとお願いした。
医事課には、もしペットクリニックから電話がかかったら、すぐ繋いでくれるよう頼んでおいた。
電話がかかりませんようにと緊張しながらようやく外来を終え、医局で昼食を摂ろうとしているとPHSが鳴る。
「もしもし、医事課ですが・・・」
青ざめる私。
「先ほど処方されたお薬の件で」
脱力する私。
3時過ぎに早退することにしていたので、2時を過ぎ、あと1時間だな等と考えていると、またPHSが鳴った。
今度は看護師さんからだったので安心していたら、
「あ、先生、ペットクリニックから電話かかって・・・」
凍り付く私。
「・・・きました?先生もうすぐ早退でしょう?」
また脱力する私。椅子から落ちるところだった。
イヤ、落チマセン
実を言うと、もしホープが助からなかったら、四万十を引き上げるつもりだった。
上述のように、獣医療の問題については移住前に散々検討してはあったし、どのみち、将来犬達が年を取って、健康面で心配なことが多くなったら、獣医事情のよい大阪の家に帰らねばならないかもしれないとの想定もしていた。
しかしまだ先の話のつもりだった。
今回、ホープの異変に十分すぎるほど早い段階で気づいたにもかかわらず、失うようなことになったら、それはこの地域の獣医事情のせいに他ならない。
いくらここでの生活が楽しくて幸せでも、それは家族あってのものだ。

家族の健康と命を守るのは、家長の役目だ。
大阪の家にいれば、かかりつけ獣医まで車で5分、
夜間救急病院まで15分。
それ以外でも、時間外に診てくれる病院が30分以内の距離にある。
やっと探し当てた新天地であろうと、昔から住み慣れた故郷であろうと、その土地柄のために自分や家族が危険な目に遭ったのなら、そこに固執すべきではないと私は思っている。
そういう決心をしていたので、今もこの地で、家族揃って、のんびり幸せに暮らす日が続いている喜びが、よりいっそう大きい。
家の周りの田んぼでは、もう早稲が実り、こうべを垂れている。
刈り取りの終わった田もある。
先代おもちの時は、彼女が亡くなった翌日に、入れ替わりのように、幼木だった山桜に初めて花が咲いた。
独りぼっちになったおこげを抱いて、桜を見上げた。
今回は稲刈りを終えた田んぼを、ホープと一緒に眺めることができる。
こんな嬉しいことはない。