今朝早く、鉄砲の音が鳴り響いた。
家の近くだったが、3発ほどで終わった。
犬達と敷地内を歩いていた私は、思わず曇った空をあおいだ。
ぶっぶは大丈夫だろうか・・・
我が家の周囲も最近の里山の御多分に洩れず、イノシシが多く、ほぼ毎日銃声が響き渡っている。
これまでも、その音を聞く度にかすかに胸が痛んだが、やむを得ないことと気にとめないようにしてきた。
農家の人にすれば、イノシシによる害は死活問題なのだし。
でも今年、我が家には変な出会いがあった。
放棄田を埋め立てて赤土がそのままだった地面も、移住後数年経ってようやく下草に覆われ、繊細な地衣植物も広がった。
季節ごとに小さな花が咲いたり実をつけたりするのも愛おしく、なるべく踏まないように気遣っていたのだが、そういった場所も掘り返されてどろどろになってしまった。
季節ごとに小さな花が咲いたり実をつけたりするのも愛おしく、なるべく踏まないように気遣っていたのだが、そういった場所も掘り返されてどろどろになってしまった。
植物がダメになってしまうのはショックだが、もともとは彼らの地。
それと、周囲の山では銃のみならずワナもけっこう仕掛けられており、イノシシたちはだんだん安全なうちの敷地に足を踏み入れつつあるのだろうかと思ったりしていた。
夏頃からは、ウバメの段にイノシシが住み着いたらしく、毎朝新たに掘り起こされており、私の背より高く茂った雑草の中に、大きな寝床もあった。

(寝床の写真も撮ったはずなのに見つからない)

『ヤラレタ!』『アカンヤン!』


さすがに犬が5頭(+チワワ2匹)いても急に出くわすのは危険だし、どのみち夏はマムシが怖いので、早朝にさっと見回るくらいで、実際にイノシシと遭遇したことは一度もなかったのである。
ところが、10月26日の朝、出勤時。
家の前の田んぼに、小さなイノシシがいるのを見た。
少し行きすぎたので車をバックさせると、我が家の方に向かってぴょいぴょい逃げて行ってしまった。
かろうじて動画に撮れたので、帰宅後、興奮気味に母に見せたものだ。
きっと、ウバメの段のイノシシの子だろう、少し大きくなって、一人で冒険に出てみたのかな、などと話した。
だがどうも、そうではなかったようだ。
数日後の11月2日、その子イノシシは、ひょっこりうちの庭に現れた。
犬も人も、あまり恐れていないようだった。
その日、お昼前に庭仕事をしようと犬達と外へ出るやいなや、ブラウニーが何かを追いかけたのだ。
ほんの2mほどの距離だったので、まさか今さら鶏を追いかけたのかと振り向いた私にも、小走りに駆けていく子イノシシのお尻が十分に確認できた。
なんと、家の周りまで上がってきたのか!犬の匂いもすごいだろうに。
またまた興奮して母に報告した私だったが、その時はまさかまた子イノシシが戻ってくるとは思っていなかった。
だが、子イノシシは戻ってきた。それもほんの2、3分後に。


そして以後、黒犬達にも何度も追いかけられ、お尻を囓られんばかりに追い詰められ追い払われても、何度でもその子は戻ってきた。


だいたい毎日、庭のあちこちに現れて掘り返し、いつの間にか鶏やチワワと馴染んでしまった。
一週間後には、チワワとお尻を突っつきあって遊んでいるところを母が目撃している。
その直後に、気づいて猛然と駆けつけた黒犬4頭とブ坊に、敷地のはるか向こうまで追いまくられたらしいが。
近くで見ると、本当に小さい。
加えて、いろいろな危険を全然分かっていないところから推測してみる。

ウバメの段で生まれ育ったのは間違いない。
きっと、近くの山に出かけていて、親と兄弟は罠か猟で殺されたのだろう(10月26日の少し前くらいに)。
きっと、近くの山に出かけていて、親と兄弟は罠か猟で殺されたのだろう(10月26日の少し前くらいに)。
一匹だけ助かって、生まれ育った場所に逃げ帰ってきたのではないだろうか。

こんな小さい子を一匹だけ逃さず、捕るならちゃんと全部捕ってやってよ。
残されればかえってむごいじゃないか。
母と私は、イノちゃんとかブイちゃんとか適当に呼んでいたが、そのうちなんとなく「ぶっぶちゃん」と呼ぶようになっていった。
1週間ほど通い詰めた後、ぶっぶちゃんは毎日は現れなくなった。

3、4日毎に庭にやってきて、他の日は、ウバメの段や、ゲートの外回りや、前の田んぼ(今は何も植わっていない)を順に回っているようだ。
同じところを毎日掘り返しても、食べ物は得られないと学習したようだ。
ぶっぶちゃんは最初から私達人間を怖がらなかった。
追いかけられるまでは、犬も怖くなかったようだ。
だから最初からけっこう間近で観察できたのだが、掘っているわりにほとんど食べ物にありついていない。
ごくたまにもぐもぐしているばかりで、ただただ掘っている。

初めはウバメガシのどんぐりがたくさんあったので、それらをボリボリと食べていたが、もうない。
試しに、サツマイモを埋めておいてみたが、掘り当てているのに食べようとしない。
母が、蒸かしイモを放り投げてやったら、背中にコツンと当たって、嗅いだが食べなかった。
何でも食べるというネットや本の情報と、ずいぶん違うなあ。
とにかく、我が家に通い続けられると困る。
今は小さくて可愛いが、100kgにもなるらしい。
すでに2年前に私が汗水流して張った芝生も掘り返され、バラの苗が2本、ミカンの木が1本消えてなくなった。
頼むから、山に帰っておくれ。
だが願いもむなしく、どんなに犬達に追いかけられても、ぶっぶはやってくる。
そうこうしているうちに、すっかり情が移ってしまった。

たぶん、この近くで大きくなれば、早晩ワナか銃で命を落とすことになろう。
可哀想だが、現状では仕方がない。
仕方がないと分かってはいるが・・・


昨日も、我が家でしこたま掘り返しまくった後、前の田んぼで一生懸命に何か掘っていた。
ちょうど母と車で出かけるときに見かけ、
「あんなとこにいたらやがて殺されてしまうよ」
と心配したのだった。
今朝の銃声は、どうだったのだろう。
またぶっぶに会えるのだろうか、それとも昨日のお昼に見た小さな背中が、最後になるのだろうか。
話し声が入っています、ご注意