4/19/2020

とある救急要請






病院と救急隊とは、保護されたネットワークで繋がっていて、救急車に収容された患者さんの情報『傷病者観察票』がオンラインで確認できる。


・・・なんだか分かりづらい書き方になったが、要するに、地域の救急車が収容した患者さんの状態が、病院のパソコンから見られるのである。
ソレハ便利


先日、そのパソコンを看護師さん達と一緒に見ていたとき。
妙に空白の多い観察票が目に止まった。

枠外に走り書きのメモがあり、高齢男性が道で倒れているという。
通りかかった人が通報したようだ。



救急隊員は患者さんを病院に搬入するまでの間に、最大限に情報を集める努力をしてくれる。
それが迅速で正確な診断・治療の助けになるからだ。

だから、普通『傷病者観察票』は、現在の患者さんの状態はもちろん、これまでの病気や家族からの情報、何度も計測した血圧や脈拍など、びっしりと書き込まれているものだ。
ホウホウ


その観察票は、患者さんの年齢・氏名といった個人情報はおろか、意識状態も体の状態もなにも書かれていなかった。

普段なら
 「○○時〜気分不良、○分後から嘔吐×回、前日から云々」
 「家族が帰宅すると倒れていた、呼びかけに反応無し、云々」
などと深刻な病状が細かく記載されている欄はこうなっていた。

さらに”訴え”、すなわち一番つらい症状を書く欄は
風に吹かれながら気持ちよく道端で寝転んでいるところへ救急車がサイレンを鳴らしてやってきて、男性もさぞやびっくりしたことだろう。



この朝、私も家を出て目を見張った。
前日は豪雨だったが朝からきれいに晴れ上がり、強い風が吹いている。
朝日を受けるめえ太の目

普段はPM2.5で黄色くかすむ山々がくっきりと鮮やかに見え、さざ波の立った田んぼの水面は銀色に輝いていた。

畦で作業している老夫婦のシルエットを横目に見ながら、写真に収められたらと願ったがいかんせん運転中だ。
途中で停車して大急ぎで一枚だけ撮った

昔、もっと自然が豊かだった頃はこれが当たり前だったのか。
昔の人も、当たり前とは思わずその度に感動したのだろうか。

などと考えながら出勤した、その午前中の話である。



だから、この観察票を見て、
 「分かる、分かる」
と自然に頬が緩んだ。

長年生きてきても、山の緑に心を動かさずにいられない人がいる。
ためらわずすぐ救急車を呼んでくれる人もいる。

救急隊は念のため脈など診た上で引き上げたようだ。

救急処置室で、看護師さん達と何度も読み返しては幸せな気分で笑った。
疲れた心もふんわり和らいだ。





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